1. 12月の冬薔薇

  2. 12月の柚子

  3. つはぶきは希望の花

  4. 蜂の巣

  5. 日本三大薬草センブリ

  6. ミゾソバとアゲハ

  7. 露草

  8. 野紺菊

  9. ノボリリュウ

  10. マムシグサ

  11. 半夏生

  12. 日本茜

  1. 北斎の描くセンス・オブ・ワンダー

  2. 和暦の季節感を味わえる時間軸

  3. 見返しのカラー図版

  4. お客様からの喜びの声2025

  5. お客様からの喜びの声2024

  6. ご注文の際の注意点

  1. 第二候 黄鶯睍睆 うぐいすなく

  2. 第一候 東風解凍 はるかぜこおりをとく

  3. 第七十二候 鶏始乳 にわとりはじめてとやにつく

  4. 第七十一候 水沢腹堅 さわみずこおりつめる

  5. 第七十候 款冬華 ふきのはなさく

  6. 第六十九候 雉始雊 きじはじめてなく

  7. 第六十八候 水泉動 しみずあたたかをふくむ

  8. 第六十七候 芹乃栄 せりすなわちさかう

  9. 第六十六候 雪下出麦 ゆきわたりてむぎのびる

  10. 第六十五候 麋角解 さわしかのつのおつる

  11. 第六十四候 乃東生 なつかれくさしょうず

  12. 第六十三候 鱖魚群 さけのうおむらがる

七十二候 植物 自然

第二十九候 菖蒲華 あやめはなさく

菖蒲と書いて、あやめと読むのでややこしいのですが、七十二候の「菖蒲華(あやめはなさく)」はアヤメのことです。

アヤメ科アヤメ属の花


アヤメ科アヤメ属の花は種類が多く、文目(あやめ)、燕子花(かきつばた)、花菖蒲(はなしょうぶ)、最近はジャーマンアイリスなどもよくみかけます。「いずれ菖蒲(あやめ)か杜若(かきつばた)」は甲乙つけがたいことのたとえ。いちばん最初に咲くのは一初(いちはつ)で、花の基部に鶏冠状の白い突起があります。小ぶりで日陰を好む著莪(しゃが)もアヤメ科。カラフルでおおぶりなジャーマンアイリスも早く咲く品種で、黄色やオレンジのブラシ状の突起があります。

一初(いちはつ)

著莪(シャガ)

ジャーマンアイリス

そして水辺に咲くのはカキツバタ。杜若、燕子花とも書き、咲いている場所と、紫の花の基部に一本の白筋があるのですぐに見分けがつきます。なんとも美しい紫ですね。尾形光琳の『燕子花屏風図』でよく知られるように水辺の花です。

燕子花(かきつばた)

ちょうど燕子花が咲く頃、ツバメの子が巣立って空を泳ぎ始めます。垂れ下がった花の様子とツバメの姿を重ねた美しい表現で、まさに季節感がよくわかります。ツバメをよく観察してみると、ツバメの羽はコバルトのような青や紫にキラッと光っています。昔の人はこの辺りも重ね合わせ、カキツバタに燕子花の字をあてたのでしょう。

一方、紫の花弁の基部にはっきり網目模様がみえるのがアヤメです。菖蒲と書いてあやめと読むのでわかりづらいのですが、語源は文目、綾目です。

文目(あやめ)

今、山の中に咲いているのはアヤメ、もしくは花菖蒲の原種であるノハナショウブ(野花菖蒲)のどちらかで、楚々とした野生の姿もいいものです。

山の中に咲く文目(あやめ)

花菖蒲は江戸時代に改良された園芸品種で、色はさまざまですが、ノハナショウブ(野花菖蒲)を原種とするため、花の基部に黄色がみえます。いちばん最後まで咲いているのはこの栽培品種の花菖蒲(はなしょうぶ)で、今の季節は花菖蒲が多くなります。花菖蒲は野生のノハナショウブから作られた江戸時代の園芸品種ですので、その数は数千種にも及びます。色も紫だけでなく、白や黄、青、ピンクなどさまざま。水に浸っているのは苦手で日照りを好みます。花びらの基部に黄色がみえるのが花菖蒲です。

花蜂とアヤメ科の花


梅雨を彩るアヤメ科の花たち。アヤメ科の花はいずれも同じように垂れ下がる花びらと、屋根のようにめくれあがった花びらがあって、中央が複雑に隠された不思議な形をしています。

アヤメ科の花たちは雨が降っても花芯が濡れないようなかたちに進化したと考えられています。かぶさるように立ち上がった花びらだけでなく、その中にも花芯を守る小さな花びらがあり、花蜂がもぐりこむとちょうど背中に花粉がつく、奥の深いトンネルのようになっています。

垂れ下がった花びらは訪れる虫が発着するためのタラップで、文目模様や白い線は蜜の在り処へと導くための目印、蜜標です。アヤメ科の花は花蜂たちを受粉者に選んで進化してきたのです。

紫と緑の組み合わせは雨にもっとも映える色合わせ。雨に濡れると一層鮮やかになり、目にしみるような美しさです。曇りの日や雨の日にいちばん輝いてみえる紫の花には、しっとりとした梅雨の日本を圧倒的に美しくする強さがあるようにおもいます。

水辺に生えるショウブ


ところで、端午の節句に使われるショウブは水辺に生えるサトイモ科ショウブ属の植物。刀のような鋭い葉には邪気を払う力があるとされ、お湯に入れると香りとともに油が浮いてきますが、これが薬効のある精油成分で、「菖蒲湯」の風習があります。

私の田んぼでも水路に生えるショウブを大切にしています。ショウブの葉は夏になっても青々として美しく、カエルたちも大好きなようで、ちょこんと葉につかまっているのがおなじみの光景です。

ショウブの花は地味な黄土色の花穂です。地味なので鑑賞されることはありませんが、ちょうど田の草取りをする今の季節、葉の根元あたりをよくみると、ひっそりと咲いています。

菖蒲(ショウブ)

文責・高月美樹

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