1. 12月の冬薔薇

  2. 12月の柚子

  3. つはぶきは希望の花

  4. 蜂の巣

  5. 日本三大薬草センブリ

  6. ミゾソバとアゲハ

  7. 露草

  8. 野紺菊

  9. ノボリリュウ

  10. マムシグサ

  11. 半夏生

  12. 日本茜

  1. 北斎の描くセンス・オブ・ワンダー

  2. 和暦の季節感を味わえる時間軸

  3. 見返しのカラー図版

  4. お客様からの喜びの声2025

  5. お客様からの喜びの声2024

  6. ご注文の際の注意点

  1. 第二候 黄鶯睍睆 うぐいすなく

  2. 第一候 東風解凍 はるかぜこおりをとく

  3. 第七十二候 鶏始乳 にわとりはじめてとやにつく

  4. 第七十一候 水沢腹堅 さわみずこおりつめる

  5. 第七十候 款冬華 ふきのはなさく

  6. 第六十九候 雉始雊 きじはじめてなく

  7. 第六十八候 水泉動 しみずあたたかをふくむ

  8. 第六十七候 芹乃栄 せりすなわちさかう

  9. 第六十六候 雪下出麦 ゆきわたりてむぎのびる

  10. 第六十五候 麋角解 さわしかのつのおつる

  11. 第六十四候 乃東生 なつかれくさしょうず

  12. 第六十三候 鱖魚群 さけのうおむらがる

七十二候 兆し 天気

第一候 東風解凍 はるかぜこおりをとく

袖ひちてむすびし水のこほれるを春立つけふの風やとくらむ 紀貫之

立春の日を明快に示したこの歌は、七十二侯の第一侯「東風解凍(はるかぜこおりをとく)」がダイレクトに表現された歌として、よく知られています。

東風は風の吹く方向ではなく、春風の総称です。春は陰陽五行で東を司るため、東風といえば、春の代名詞。次々に吹く春の風が、凍土を解かし始めます。

情景を伝える子季語


七十二侯では東風と書いて「はるかぜ」と読むことになっていますが、一般的には「こち」と呼びます。東風にはたくさんの子季語があり、春のさまざまな事象と組み合わせて、そこに広がっている情景をこまやかに伝えることができます。

たとえば高東風(たかごち)といえば、早春に空高く吹きわたるすがすがしい風のこと。深呼吸したくなるような風です。

真っ赤な椿が咲いている日は椿東風(つばきごち)、桜が咲いたら桜東風(さくらごち)。ひばりが鳴く日の風は、雲雀東風(ひばりごち)。サワラ漁が始まったら鰆東風(さわらごち)、ブリの幼魚が漁れる日のいなだ東風。

いかがでしょうか。たちまちに情景や匂いが浮かんできますよね。

さらに時間や強さの違いでも、こまやかに表現することができます。朝に吹いたら朝東風(あさごち)、夕方に吹けば夕東風(ゆうごち)、吹き荒れるのは荒東風(あらごち)、強東風(つよごち)。雨混じりの雨東風(あめごち)。

そして正東風(まごち)といえば、本当に真東から吹く風です。このように東風は早春だけでなく、三春(初春、仲春、晩春)にわたって広く使われる季語です。

春を運ぶ風


実際に春風の方向はさまざまで、日によって北風、西風、南風、いろんな方向から吹いています。春一番(はるいちばん)は冬から春への変わり目に初めて吹く強い南風、涅槃西風(ねはんにし)は旧暦二月十五日(3月の彼岸の頃)に吹くやわらかな西風。桜が咲く頃には春嵐(はるあらし)となり、桜を一気に散らします。

そして最後に。東風といえば、やはりこの和歌ですね。

東風吹かばにほひをこせよ梅の花 あるじなしとて春を忘るな  菅原道真

道真を慕って、京都から大宰府へ、一晩で飛んでいったとされる飛梅(とびうめ)。現在も大宰府天満宮では御神木の白梅が有名ですが、じつは京都にあった梅は紅梅だったとか。どこで色が変わってしまったのでしょうか。

この写真は東京の羽根木公園、梅園の紅梅です。

写真提供:高月美樹

大宰府から正式に寄贈された紅白の飛梅の、紅梅の方だそうです。なんとも美しい色ですね。ほのかな梅の香りを運ぶ風を、梅東風(うめごち)といいます。

写真提供:高月美樹

これは文化文政期に生きたご先祖、高月虹器が残した生け花図です。
そこに添えられていた俳句は

風あるもよしなきもよし梅の花  高月虹器

これもまた「春といえば東風」、を前提にした一句でしょう。風があるのもよい、ないのもよい。梅を愛でる気持ちがよく表れていると思います。

そして、これはわが家のシンプルな白梅です。

写真提供:高月美樹

春といえば、風。次から次に吹く風が木々を芽吹かせ、どんどん春を運んできます。
ぜひ春立つけふから、東風(こち)の豊かなバリエーションを感じてみてください。


文責・高月美樹

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